曽我部恵一さんより

2020年1月15日(水)渋谷クラブクアトロで開催する 遠藤賢司生誕72周年『お~い えんけん!ちゃんとやってるよ!2020』。今回の世話役を担当してくださっているサニーデイ・サービスの曽我部恵一さんより「エンケンさんのこと」という素敵な文章が届きました!

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エンケンさんのこと

去年最後に聴いたレコードはエンケンさんの『夢よ叫べ』。
45回転の12インチ二枚組になって去年、生まれ変わったこの作品。最初にCDで出たのは1996年。サニーデイが『東京』を出した年だった。
エンケンさんはぼくらが所属した小さなレコード会社に新しく入ってきて、ディレクターも同じ、ジャケットデザインもサニーデイを担当する小田島くんだったから、エンケンさんのことは憧れのロックスターだったけど、その時点でライバルにもなった。
初めてお会いしたとき「MIDI(レコード会社の名前)の後輩、‪遠藤賢司‬です!」と、冗談交じりにおっしゃった。
冗談交じりだったけど、その瞳には、君らには絶対に負けてなるものか!という炎がゆらめいて見えた。
完成したこのアルバムを聴いて、正直、「すげえな」と思った。ぼくも、「負けたくない」と思った。
その時からエンケンさんは、ぼくのライバルで先輩で友だちで後輩で師匠になったのだ。この人と競争しようと思った。

それから、いろんな場所で、たくさん叱られたし、たくさん褒めてくれた。「ごめんね」とあやまられたこともある。そして、小学校の友達のようにレコードを聴いたり、笑いあったりした。たくさんのエンケンさんの笑顔を思い出す。
エンケンさんはいろんな人にそのように接していたから、いろんな人がぼくのようにエンケンさんのことを師匠やライバルや友だちだと感じているのだろう。

エンケンさんが亡くなって、三年が経つ。
心の中でエンケンさんと交わした約束がいくつかある。
エンケンさんが亡くなってもぼくは、エンケンさんといろんな約束を交わし続ける。

寒い冬の真夜中にジョギングする時、エンケンさんが「きみならできるよ!」と言っている。練習がきつい時、エンケンさんが「練習たくさんすると指が痛くて涙が出そうになるんだよね」と言った声が聞こえる。本棚の七巻まで読んで頓挫している『大菩薩峠』が目に入るたびに「曽我部くんなら、きっと読破できると思うんだ」というエンケンさんの言葉を思い出す。

45回転の12インチになった『夢よ叫べ』は、エンケンさんの歌が、くっきりと立ち上がって響く。クリアーに、とかそんなんじゃなくて、姿勢良く、すっくと。
「俺は勝つ」にはエンケンさんの炎が燃えている。いつか見たやつだ。
「夢よ叫べ」の声には、全宇宙を支配する風のようなものが吹いている。歌い終わる息遣いには、かすかだけど消えることのないやさしさが灯る。

はたと自分の身を振り返る。
ぼくは、ちゃんとやっているだろうか?エンケンさんに「負けたくない!」と思ったあの気持ちは?

‪1月15日、エンケンさん馴染みの(ぼくたちもだけど)渋谷クラブクアトロに立って、ぼくは言おうと思ってる。‬
「おーーーい、エンケンさん!ちゃんとやってますよーーーー!!!」と。

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2020年1月15日
渋谷クラブクアトロ

遠藤賢司生誕 72 周年
『お~い えんけん!ちゃんとやってるよ!2020』

出演
サニーデイ・サービス
カーネーション
岸田繁(くるり)
世話役・まとめ役:曽我部恵一

プレイガイド
チケットぴあ:0570-02-9999 (Pコード:170-128)
ローソンチケット:0570-084-003(Lコード:72029)
イープラス
クラブクアトロ店頭